Cosmico
2026年9月1日

弁護士会のガイドラインに学ぶ生成AI活用の実態と留意点

第二東京弁護士会LIBRA誌の特集をもとに、訴訟業務・事務所運営での生成AI活用の実態と、弁護士会ガイドラインが示す留意点を整理。ハルシネーション事例や利益相反リスクなど導入前に押さえたいポイントを両面から解説します。

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  • 第二東京弁護士会の会報誌『LIBRA』2026年7-8月号が「弁護士業務における生成AIの利活用と留意点」を特集し、訴訟業務・企業法務・事務所運営の3分野での活用実態と、留意点を整理して紹介しています。
  • 訴訟業務では相談メモの時系列整理や尋問事項案の作成、事務所運営では定型メールの下書きや領収書のデータ化など、下書き作成の相棒として活用が広がっています。
  • 一方で、実在しない判例をもっともらしく生成する「ハルシネーション」や、事務所内の共通AI環境を介して利益相反事件の情報が実質的に共有されてしまうリスクなど、見落とせない留意点も複数指摘されています。
  • 第二東京弁護士会は「生成AIサービスの適正利用ガイドライン」を施行済みで、最終的な法的判断は必ず弁護士自身が行うことが前提となります。

情報の基準日:2026年9月1日時点

判例調査と証拠整理に追われる夜、生成AIを使えば早く終わるとは聞くものの、「誤った情報を出されたら」「依頼者の秘密情報を入力して大丈夫か」という不安が先に立つ弁護士も多いのではないでしょうか。第二東京弁護士会は会報誌『LIBRA』2026年7-8月号で「弁護士業務における生成AIの利活用と留意点」を特集し、活用事例と留意点をまとめて公開しました(2026年9月1日確認)。

各生成AIの特徴と「Claude for Legal」の登場

生成AIはサービスごとに得意分野が異なります。特集の整理は次のとおりです(2026年9月1日確認)。

サービス 強み 主な活用シーン
ChatGPT 総合力が高く、音声・画像・データをマルチに処理可能 議論の壁打ち、契約書ドラフト作成、会議メモの要約
Claude 長文処理能力が高く、文章表現が自然 長文書類の構造化・比較整理、論理チェック
Gemini+NotebookLM Google Workspaceとの連携、指定資料に基づく回答で誤情報が少ない 案件資料の横断整理、条文・ガイドラインの整理

なかでも注目したいのは、2026年5月12日に法律事務所・インハウス向け「Claude for Legal」がローンチされたという記述です。組織向けには学習に使わないDPAが適用されますが、個人向けは対象外のことが多く、プラン選定時の確認が必要です。控訴理由書のたたき台整理でChatGPTとClaudeを使い比べ、「長い準備書面を読み込ませるならClaudeの方が要点を崩さずまとめてくれる」と感じた弁護士の声もあります。

訴訟業務・事務所運営での活用実態

訴訟業務では、相談者から提供された資料やメモを生成AIに読み込ませ、「事実を時系列順に整理して」「追加でヒアリングすべき事項を考えて」といった指示で情報整理の下書きを作らせる使い方が紹介されています。たとえば、依頼者から段ボール一箱分の資料を預かり、まず時系列表のたたき台をAIに作らせて抜け漏れたヒアリング項目を洗い出した、という例も挙げられていました。尋問準備でも、提出済みの陳述書や証拠を読み込ませて主尋問・反対尋問の質問事項案を生成させる活用法が紹介されています。あくまで案なので、証拠との整合性を含めた弁護士自身の最終確認が前提です。

事務所運営については、案内メールやお礼状といった定型文面の下書き、領収書・名刺の画像データ化、経営課題を著名な経営者の視点で壁打ちする使い方が紹介されています。定型業務では効率化を実感しやすい一方、ある小規模事務所の弁護士はお礼状の下書きをAIに任せたところ、体裁は整っていても相談者の事情に触れない素っ気ない文面になり、結局ほぼ一から書き直したといいます。向き不向きの見極めが大切なようです。

見落とせない留意点:ハルシネーションと利益相反

まず**ハルシネーション(誤情報の生成)**です。2023年、ChatGPTのリリース直後、米国の連邦地裁でAIが生成した架空の判例が訴訟書面に引用・提出された事案が最初の報道事例とされています。裁判所によるハルシネーション事例を集めたデータベースによれば、弁護士がAIを活用して問題になった事件は世界で432件、うち104件は2026年の事例だと報告されています(2026年9月1日確認)。実際、尋問事項案の作成でAIを使った弁護士が、条文番号が改正前のものと気づかず転記しかけ、提出直前の読み合わせで誤りに気づいた、という経験談もあります。用語集:ハルシネーションのとおり生成AIは確率的にそれらしい文章を出力する仕組みである以上、判例・条文への言及は一次資料での裏取りが欠かせません。

もう一つ見落とされがちなのが利益相反・情報遮断のリスクです。従来は権限制御や情報遮断措置(ウォール)で担当者間の情報を遮断してきましたが、共通の生成AI環境では、ある事件の情報が学習・参照を通じて別の事件担当の弁護士に出力されてしまう可能性があると指摘されています。形式的な権限分離があっても、AIを介して情報が実質的に共有されてしまう生成AI特有のリスクです。

弁護士会ガイドラインが示す5つの確認ポイント

野村総合研究所の調査では、企業の生成AI活用の課題として「リテラシーやスキルが不足している」との回答が70.3%で最多だったと報告されています(2026年9月1日確認)。弁護士業界でも同様の課題感があるとみられ、第二東京弁護士会は2025年3月27日から「生成AIサービスの適正利用ガイドライン」を施行しています。懲戒・綱紀の基準ではありませんが、秘密保持義務(弁護士職務基本規程23条等)に関わる内容として、次の5つの観点が推奨事項として示されています(2026年9月1日確認)。

  1. 生成AIサービスの選定基準:学習利用の有無、事業者のアクセス可否、データの保存先・削除方法を確認する。
  2. 誤情報(ハルシネーション)とファクトチェック:出力結果は一次資料の確認を含む検証を行う。
  3. 依頼者への説明:秘匿性の高い情報を入力する場合は、説明・同意取得や委任契約書への明記を検討する。
  4. 弁護士報酬:作業時間の短縮だけでなく、提供する価値や責任の所在も踏まえて検討する。
  5. 安全管理措置:弁護士情報セキュリティ規程に基づき、適切な対策を講じる。

初回相談で「調査メモの下書き作成に生成AIを使うことがあります」と一言添える弁護士もいるようです。日弁連のAI戦略WGも2025年9月に会員向け注意事項を取りまとめ、2026年2月に更新版を公表しています。

個人〜小規模の法律事務所でどう向き合うか

大規模な事務所でなくても、段階的に取り入れることは十分可能です。特集でも、品質管理の負担が小さい「事務所内部の業務」から始めるのがよいとされています。一人で切り盛りする弁護士が、まず名刺のデータ化と定型のお礼状づくりから試し、半年ほどかけて対象業務を広げていった、という進め方も考えられます。契約書レビューへの活用方法は弁護士のためのChatGPT契約書レビュー実践ガイド、事務所内のリスク対策は弁護士事務所の事故防止と生成AIヒヤリハット集で紹介しています。

まとめ

弁護士業務における生成AI活用とは、判例調査や書面のたたき台作成、事務所運営の定型業務を生成AIに下書きさせ、最終判断は弁護士自身が行うワークフローです。ハルシネーションや利益相反・情報遮断の留意点は避けて通れず、弁護士会ガイドラインの5観点を確認しながら段階的に取り入れるのが安全です。個別の法的判断は必ず弁護士等の専門家にご確認ください。

株式会社Cosmico(東京都西新宿)は、士業事務所向けに生成AI活用ルール整備を支援しています。

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