Cosmico
2026年8月9日

弁護士法72条とAIリーガルテック、法務省が指針見直しへ

2026年1月、法務省は弁護士法72条とAIリーガルテックサービスに関する現行ガイドラインの運用見直し方針を示しました。現行4要件のおさらいと、法律事務所が今取るべき実務対応をわかりやすく解説します。

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  • 2026年1月9日、法務省は弁護士法72条とAIリーガルテックサービスに関するガイドラインの運用を見直す方針を、内閣府・規制改革推進会議のワーキンググループで示しました。
  • 現行ガイドライン(2023年8月公表)は「報酬を得る目的」「事件性」「法律事務性」の3要件と、弁護士自身による精査という利用形態の4点で該当性を判断する枠組みです。
  • 見直しの背景には、ガイドラインの存在自体がリーガルテックの開発を萎縮させかねないという課題と、AIの誤情報・情報漏洩リスクというガバナンス上の課題があります。
  • 制度の細部が固まるまでは「AIの出力は参考情報、最終確認は弁護士」という現行原則に沿った運用が実務上の安全策です。

情報の基準日:2026年8月9日時点

生成AIを使った契約書レビューや書面ドラフトの支援サービスは、この数年で法律事務所の実務にもすっかり定着してきました。その一方で、「AIにここまでやらせて弁護士法72条に触れないのか」と疑問を抱いたことがある方も多いのではないでしょうか。

2026年1月9日、法務省がこの疑問に関わる動きを見せました。内閣府の規制改革推進会議「デジタル・AI分野ワーキンググループ」に提出した資料で、現行のリーガルテックガイドラインの運用を見直す方針を明らかにしたのです。日本経済新聞も同時期にこの動きを報じています。本記事では見直し方針の中身と、実務対応を整理します。

何が起きたのか:法務省が示した「指針見直し」の中身

弁護士法72条とは、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関する法律事務を取り扱うことを禁止する規定である。いわゆる「非弁行為」を禁じる条文で、最高裁昭和46年7月14日大法廷判決は、この規定の趣旨を「資格も規律もない者が自らの利益のためにみだりに他人の法律事件へ介入することを防ぎ、法律秩序を守るため」と説明しています。

この弁護士法72条とAIを使ったリーガルテックサービスの関係について、法務省大臣官房司法法制部は2023年8月、「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」と題するガイドラインを公表しました。これが、多くの契約書レビューAIサービスが「適法性の目安」として参照してきた現行の指針です。

そして2026年1月9日、同じ司法法制部は規制改革推進会議のワーキンググループに新たな資料を提出し、「現状・時代ニーズに即した再整理を行い、必要な措置を検討する必要性」があると明言しました。廃止や改定内容が確定したわけではなく、あくまで検討の出発点という位置づけですが、公表からわずか2年半ほどでの見直し表明は、生成AIの普及スピードの速さを物語っています。

現行ガイドラインの4つの判断要素をおさらいする

見直しの議論を理解する前提として、現行(2023年8月)ガイドラインが示す弁護士法72条該当性の判断要素を確認しておきましょう。

要素 判断のポイント
①報酬を得る目的 サービスの運営形態や支払われる金銭の性質・目的等から、対価関係が認められるか
②訴訟事件…その他一般の法律事件 契約の目的・当事者関係・経緯などから、権利関係に争いや疑義があるか
③鑑定…その他の法律事務 サービスの機能と表示内容から実質的に「法律事務」といえるか
④利用者による違法性阻却 弁護士が自ら出力を精査・修正する使い方なら、①〜③に該当しても違反しない

例えば、都内で中小企業法務を扱う架空の「ひまわり法律事務所」の山田太郎弁護士が、契約書レビューAIで業務委託契約書の下書きをチェックしたとします。AIの指摘は参考情報として扱い、条項の妥当性は山田弁護士自身が最終確認する——この運用であれば④の考え方に沿った使い方といえます。逆に、AIの出力をそのままクライアントへの法的助言として提供する運用は、事件性や法律事務性の該当リスクが高まる可能性があるため注意が必要です。

なぜ今、見直しが必要とされているのか

法務省が挙げた課題は、方向性の異なる2つの論点に整理できます。

  1. 萎縮効果への懸念:新しいリーガルテックサービスが次々登場する中、弁護士法72条との関係が不明確なままだと再整理を求める声が強まっています。法務省自身、ガイドラインの存在が「かえってリーガルテックサービスの開発・提供を萎縮させている可能性もある」と資料内で認めています。
  2. ガバナンス面のリスク:AIの学習・処理過程では個人情報や機密情報が意図せず漏洩し、プライバシー侵害につながるおそれが指摘されています。また弁護士が監修しない情報や、AIのハルシネーション(事実に基づかない誤情報の生成)による誤った法的情報の流布は、国民の権利利益を損ない、法律秩序を害するリスクにもつながります。

この2論点をどう両立させるかが今後の焦点です。法務省は解決の方向性として、法改正のような「ハードロー」は機動性に欠けるとし、ガイドライン改定のような「ソフトロー」も、刑罰法規である以上、個別サービスを対象にした網羅的な「ホワイトリスト」策定は難しいという限界を挙げています。現行のような「類型提示型」アプローチも新サービスの登場スピードにすぐ陳腐化する課題があり、各手法のメリット・デメリットを踏まえた段階的な検討を進める方針です。

法律事務所は今、何をすればいいのか

制度の細部が固まるまでには時間がかかると見られます。その間にできる実務対応は次の3点です。

  1. 現行4要件に沿った運用を続ける:AIの出力は参考情報として扱い、事件性・法律事務性の判断や最終確認は弁護士自身が行う体制を維持しましょう。
  2. 情報管理のルールを見直す:クライアントの機密情報や個人情報をAIに入力する際の取り扱いルール(マスキング、利用範囲の限定など)を改めて確認しておくと安心です。
  3. 一次情報を定点観測する:ワーキンググループは継続中で、今後も資料が順次公開される見込みです。運用ルールを先走って変更するより、一次情報の更新を確認しながら段階的に対応するのが安全です。

西新宿を拠点にAI・DX導入支援を行う株式会社Cosmicoでも、士業事務所向けに生成AIの業務適用を伴走支援する機会が増えています。契約書レビューAIのツール選定や社内運用ルールの整備で迷った際は、生成AI活用の研修AI戦略コンサルティングを活用するのも一つの方法です。もちろん、弁護士法72条の該当性そのものについては、最終判断は弁護士等の専門家へ確認することが欠かせません。

まとめ

今回の見直し方針は、現時点では「検討を始める」段階のものであり、明日から実務対応が変わるわけではありません。ただし公表からわずか数年で見直しの声が上がったこと自体、AIリーガルテックの進化スピードの速さを示しています。生成AIを業務に取り入れる法律事務所が増えるほど、ハルシネーションによる誤情報や機密情報の取り扱いといったガバナンス面のリスクにも目を向ける必要があります。情報漏洩対策の考え方はこちらの記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。まずは現行ガイドラインの4要件を押さえつつ、今後の会議資料の公開を注視していきましょう。

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