税理士のChatGPT活用術とハルシネーション注意点
税理士事務所でのChatGPT活用事例と、見落とせないハルシネーション(誤情報)リスクを両面から解説。中小規模の事務所でも取り入れやすいチェック体制の作り方も紹介します。
- 税理士事務所でのChatGPT活用は、証憑の突合作業や月次報告資料の下書き作成など「時間のかかる定型作業の補助」で成果が出ています。
- 一方で、ChatGPTは古い税制のまま回答したり、存在しない条文を挙げたりする「ハルシネーション」のリスクがあり、そのまま顧問先に渡すのは危険です。
- 実在の大手税理士法人も、AI出力は有資格者によるチェックを必須とするガイドラインを公表しています。
- 中小規模の事務所でも取り入れやすい「チェックリスト運用」「ダブルチェック体制」の作り方を紹介します。
情報の基準日:2026年8月22日時点
「事務所の業務改善にChatGPTを使ってみたいけれど、間違った情報をそのまま顧問先に渡してしまわないか不安」——そんな声を、日々多くの税理士の先生方から伺います。月次の記帳確認や報告資料の作成に追われる中で、新しいツールを試す時間そのものが取りにくいという事情もあるでしょう。この記事では、税理士事務所での具体的なChatGPT活用例と、見過ごせないハルシネーション(誤情報)リスクを両面から整理し、明日から真似しやすいチェック体制の作り方まで紹介します。
税理士業務でChatGPTは実際どう使われているか
税理士事務所でのChatGPT活用は、判断が難しい専門業務そのものよりも、時間のかかる定型作業の下準備で効果が出ています。
- 証憑の突合作業:クレジットカードの利用明細と会計データをCSVで出力し、ChatGPTに読み込ませて差異を抽出する運用です。目視での確認に数時間かかっていた作業が、数分で完了したという事例が株式会社MoMoのコラムで報告されています(2026年8月22日確認)。
- 月次報告資料の下書き作成:顧問先の経理データや財務情報をもとに、AIが要約・分析のドラフトを作成し、約1時間の業務短縮につながった事例もあります(同上)。
たとえば都内で顧問先30社ほどを抱える「あおば会計事務所」(架空の事務所名です)では、月末の証憑突合をChatGPTの下書き抽出+担当者の最終確認という2段構えにしたことで、繁忙期の残業時間を抑えられた、という運用イメージが考えられます。ポイントは、AIに「最終判断」までさせるのではなく、「時間のかかる一次処理」までを任せる役割分担です。
便利さの裏にある「ハルシネーション」というリスク
ハルシネーションとは、生成AIが事実に基づかない情報を、あたかも事実であるかのように生成してしまう現象です。ChatGPTも例外ではなく、税制改正前の古い税率のまま回答したり、実在しない条文を引用したりすることがあります(用語集:ハルシネーションも参照)。
税理士へのインタビュー記事では、ChatGPTの初期は「平気で嘘をつく」と評されていたものの、回答精度自体は向上してきているという声も日税ジャーナルオンラインで紹介されています(2026年8月22日確認)。ただし精度が上がったからといって、税務・会計に関わる判断をAIの出力だけで済ませてよいことにはなりません。
実際、都内のある個人事務所では、ChatGPTが答えた扶養控除の要件をそのまま顧問先に伝えかけた担当者が、念のため国税庁サイトで確認したところ古い基準のままだったと気づき、事なきを得たという話も聞かれます。ヒヤリとした経験が、出力を鵜呑みにしない習慣につながったといいます。
この点は業界の大手事務所も同様に重視しています。辻・本郷税理士法人は生成AI利活用ガイドラインを公表しており、生成AIの出力内容は正確性を保証しないとした上で、税務・会計関連データについては有資格者である税理士や会計士によるチェックを必須としています。あわせて顧客情報の暗号化・匿名化・除外処理、全従業員への定期研修も明記されています(2026年8月22日確認)。「AI任せにしない」という方針は、事務所の規模を問わず参考になります。
中小規模の事務所でも真似できるチェック体制
士業向けのハルシネーション対策としては、次の3つが具体策として税理士.chの解説記事で挙げられています(2026年8月22日確認)。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| チェックリストの運用 | 「出典・根拠が明示されているか」「最新の法令と一致しているか」をあらかじめ明文化し、確認作業をぶらさない |
| ダブルチェック体制 | 顧問先に渡す資料にAI出力を含める場合、作成者とは別の担当者が二重に確認する |
| 定期教育・研修 | AIの特性やリスクについて、全スタッフが定期的に学ぶ機会を設ける |
大手事務所のように専任のAI担当者を置かなくても、既存の月次チェック業務に「AI出力の確認」という項目を1行加えるだけで、この運用は始められます。担当者が少ない・1人しかいない事務所では、ダブルチェックの相手を用意しにくいのが正直なところです。その場合は、顧問先に渡す前に必ず一次情報(国税庁の公表資料など)で自己点検する、という代替ルールに置き換えるとよいでしょう。たとえば担当者ひとりの事務所なら「提出前に一次情報を1件は必ず開く」という自分ルールを決めておくだけでも、確認漏れの歯止めになります。
なお、Cosmicoでは税理士事務所向けに、取引データを機械学習でパターン学習し自動仕分けするシステムを開発した実績があります(税理士事務所向け取引仕分け自動化事例)。仕分け作業の時間短縮とあわせて、人的ミスの発生源を減らす設計にすることが、ChatGPT活用時のチェック体制づくりにも通じる考え方です。
導入のハードルと向いていないケース
ChatGPT活用にはハードルもあります。まず、顧問先の機密情報を入力する以上、情報漏えい対策やアクセス権限の管理が前提になります。また、複雑な税務判断や個別事情の解釈が絡む相談は、AIの要約に頼らず税理士自身が一次情報にあたるべき領域です。逆に言えば、定型的な突合作業や資料のたたき台作成のように「間違っていてもすぐ気づける・修正できる」業務から始めるのが向いています。ChatGPTの回答をそのまま顧問先への説明に使う、といった使い方は現時点では避けたほうが安全です。
生成AI全般を業務にどう組み込むかについては、LLMの限界と税理士事務所における「本当に合理化できる」使い方、Claude for Financial Servicesとは?税理士・会計士の活用法でも詳しく扱っています。
まとめ
ChatGPTは税理士事務所の証憑突合や資料のたたき台作成を効率化できる一方、ハルシネーションによる誤情報のリスクを避けて通れません。実在の大手税理士法人も有資格者によるチェックを必須とするガイドラインを公表しており、「AIに任せきりにしない」姿勢は事務所の規模を問わず共通の前提です。チェックリストの運用とダブルチェック体制、そして定期的な教育を組み合わせることで、中小規模の事務所でも無理なく安全に活用を広げられます。なお、税務・会計に関する最終的な判断は、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
株式会社Cosmico(東京都西新宿、AI/DXコンサルティング)は、税理士事務所をはじめとする士業事務所の生成AI活用を、業務設計から自動化システム開発まで支援しています。