税理士・弁護士のためのAI機密情報自動マスキング活用術
税理士・弁護士事務所向けに、画像やPDFに含まれる機密情報を安全に生成AIへ渡すための自動マスキングのアイデアを紹介。座標ファイルと赤枠検出を使った半自動化の仕組みと、ローカルLLMとの比較も解説します。
- 税理士・弁護士の先生方から「機微な情報をそのままAIに投げるのが不安」という声をよく聞きます。
- 対策としては「自分で手作業でマスキング・仮名化する」か「ローカルLLMで完全に閉じた環境を作る」の2択がよく挙がりますが、どちらも手間やハードウェア要件の壁があります。
- そこで提案したいのが、座標ファイルに基づいて自動的にマスキングを行う仕組みです。
- さらに、赤枠で囲んだ画像を読み込ませるだけで座標を自動登録できるようにすれば、ユーザー側の作業はほぼゼロになります。
情報の基準日:2026年8月12日時点
税理士の先生や弁護士の先生とお話ししていると、「機微な情報(個人情報、名称、住所、マイナンバーなど)をそのままAIに投げるのは非常に不安である」という声を本当によく聞きます。今回は、この不安に対してCosmicoが実際に提案している「プログラムによる自動マスキング」というアイデアをご紹介します。
なぜ「機密情報をAIに渡す不安」が広がっているのか
個人情報保護委員会は2023年6月2日、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を発表しました。生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合、提供先が入力情報を機械学習に利用しない設定になっているかなど、利用規約・ポリシーを事前に確認する必要があります。
東京弁護士会の会報LIBRA(2026年7-8月号)に掲載された特集「弁護士業務における生成AIの利活用と留意点」でも、個人向けの無料・低価格帯プランを利用する際は「機密情報や個人データについて入力しないように仮名化したり、抽象化したりした上で、利用すべきである」と明記されています。実際、ある税理士事務所のスタッフが、決算資料をAIに読み込ませる直前にマイナンバー欄の写り込みに気づき、送信ボタンを押す手を止めた、という話も聞きます。
よくある対策と、その限界
こうした不安への対策として、実務上よく挙がるのが次の2つです。
- 画像やPDFの個人情報にあたる箇所を、自分で見ながらマスキングまたは仮名化する
- ローカルLLMを構築し、ネットワークから完全に遮断した環境でデータを扱う
1の方法は非常に手間がかかります。ある弁護士事務所のスタッフは、月末に届く委任状を一件ずつ確認しながら塗りつぶす作業に追われ、「本来の業務を圧迫している」とこぼしていました。2の方法についても、ローカルLLMには高スペックなハードウェアが必要です。一般的にメモリ24GB以上が目安とされ、これに満たないと処理中にディスクを一部使う「スワッピング」という現象が起き、処理速度が大きく低下してしまいます。
発想の転換:プログラムで自動的にマスキングする
そこで提案したいのが「プログラムで自動的にマスキングをする」という方法です。自動マスキングとは、あらかじめ登録した座標を読み込み、画像やPDF上の該当箇所を機械的に塗りつぶして出力する仕組みである、と言い換えられます。
具体的な流れはこうです。まず、画像のマスキングしたい箇所の座標をテキストファイルで持っておきます。そのテキストファイルを読み込み、OCRライブラリや画像編集ライブラリを使ってマスキング処理を行い、アウトプットフォルダに出力させます。これにより、機微な情報がマスキングされたデータが安定して出力される状態を、毎回人の目でチェックせずに再現できます。似た発想として、OCRで検出した領域を塗りつぶすMicrosoft Presidioのような仕組みも公開されています。
座標登録の手間をなくす工夫:赤枠で囲むだけ
とはいえ、「座標を抽出して記述する」という作業自体、ユーザーが行うには非常に分かりにくく、実用的ではありません。数値で座標を管理するのは事務所のスタッフにとってハードルが高い作業です。実際にスタッフへ数値入力を試してもらうと、「原点がどこか分からない」と戸惑われたこともありました。
そこで考えたのが、画像に対して隠したい部分(機微な箇所)を赤枠で囲み、それをプログラムに読み込ませて座標を特定し、記録ファイルに登録するという流れです。これを行えば、ユーザーは登録したい画像やPDFファイルを指定の場所に置き、登録用の機能を呼び出すだけで、座標の記録テキストに自動で追記されていく仕組みが実現できます。この状態でメインのマスキング機能を呼び出せば、実際にきれいにマスキングされたデータが出力されます。機微な情報が多く含まれる定型文章や、固定のフォーマットの書類に対しては、特に効果的なアプローチになります。
税理士・弁護士事務所での活用イメージ
架空の事例として、株式会社◯◯商事という顧問先を持つ税理士事務所を考えてみましょう。担当の山田太郎さんは、顧問先の決算資料や本人確認書類をAIに読み込ませて要約したいと思いつつ、マイナンバーや住所欄が写り込んでしまうことにいつも気を使っていました。自動マスキングを一度設定すれば、毎月同じフォーマットの書類でも、マスキング済みのデータだけをAIに渡せます。
弁護士事務所でも同様です。契約書や委任状のように署名欄・住所欄の位置が決まった書類なら、赤枠登録は一度で済みます。ある弁護士事務所では、契約書を受け取った直後に赤枠登録だけ済ませ、あとでまとめて処理する運用に変えたそうです。守秘義務を守りながら生成AIを使いたい先生方には、現実的な選択肢になりそうです。
導入する際に気をつけたいこと
このアプローチは、書類のレイアウトがある程度固定されている定型文書に強い一方、書類ごとにレイアウトが大きく変わる場合は座標登録の手間がかかり、向き不向きがあります。実際、フォーマットが少し違う書類に同じ座標を適用し、隠すべき箇所がずれてしまったケースも耳にします。また、マスキングだけで守秘義務や個人情報保護法の対応が完結するわけではありません。最終的な判断は弁護士・税理士等の専門家自身が行う必要があります。
西新宿を拠点にAI・DX導入支援を行う株式会社Cosmicoでも、機密情報を守りながら生成AIを使うための仕組み作りの相談が増えています。座標登録の自動化を含めた運用フローの設計に興味のある方は、AI戦略コンサルティングや生成AI活用の研修もご検討ください。士業の生成AI活用実態も合わせてご覧いただくと、他の事務所がどのように生成AIと付き合っているかの参考になります。
まとめ
生成AIに機微な情報を渡す不安は、士業の先生方にとって共通の課題です。手作業でのマスキングやローカルLLMにはそれぞれ手間・ハードウェアの壁があるため、座標ファイルに基づく自動マスキングと、赤枠で囲むだけの座標登録という組み合わせは、機微な情報が多く含まれる定型文章や固定フォーマットの書類に対して現実的な工夫になります。まずは事務所で扱う定型書類の中に、座標登録を活かせそうなものがないか、洗い出してみてはいかがでしょうか。