Cosmico
2026年9月9日

弁護士事務所のAIガバナンス構築、海外事例に学ぶ

オーストラリアの大手法律事務所Gilbert+TobinがOpenAIと構築したAIガバナンス体制と全社導入の成果を、具体的な数値とともに紹介。経営トップ主導の浸透策や日本の弁護士会ガイドラインとの関係から、事務所が参考にできるポイントを整理します。

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  • オーストラリアの大手法律事務所Gilbert+Tobinが、ChatGPT EnterpriseとCodexを使い事務所全体でAIガバナンス体制を構築した事例をOpenAIが公式に公表しました。
  • 採用業務のリサーチが4時間から20分に短縮されるなど、具体的な数値とともに成果が紹介されています。
  • 経営トップが自ら活用例を示したことや、承認範囲・データ管理を明確にしたガバナンス設計が、全社的な定着につながったとされています。
  • 日本の弁護士にも東京弁護士会などのガイドラインがありますが、義務ではなく推奨事項である点に注意が必要で、最終的な法的判断は弁護士等の専門家が行う必要があります。

情報の基準日:2026年9月9日時点

「今夜も契約書の山が残っているのに、明日の朝一の書面もまだ書きかけ」——そんな夜に覚えはないでしょうか。個人〜中小規模の事務所では、誰かが一人でChatGPTを使い始めても、事務所全体でAIガバナンスのルールを揃えるとなると足が止まりがちです。この記事では、海外の大手法律事務所がAIガバナンスをどう構築したかを紹介しながら、日本の事務所が参考にできる考え方を整理します。

Gilbert+Tobinの取り組みとは

AIガバナンスとは、生成AIを組織で使う際の利用範囲・確認体制・データ管理をあらかじめルール化する仕組みです。資本市場やM&Aを手がけるオーストラリアの大手法律事務所Gilbert+Tobinは、ChatGPT EnterpriseとCodex(自動化タスクを実行するAIツール)でこの仕組みを事務所全体に展開した事例をOpenAIが公式サイトで公表しています(確認日:2026年9月9日)。

もしあなたの事務所に「うちもAIガバナンスを整備しよう」という号令がかかったら、誰が音頭を取り、どの業務から手を付けるか——決めることは山積みのはずです。Gilbert+Tobinもいきなり全社一斉には始めず、オペレーション部門で試験的に使い、効果を確認できた業務からマーケティング・採用・財務などへ段階的に広げ、最後に法務実務の一部にも広げたと紹介されています。法律実務自体はHarveyなど専用プラットフォームが担い、ChatGPTはオペレーション面を支える位置づけです。

数字で見る導入効果

OpenAI公式サイトによると、Gilbert+Tobinでは2026年6月時点で利用可能アカウントの87%がアクティブに使われ、他ツールの利用率の2倍を超えたとされています。業務別の効果は次の通りです。

業務領域 導入前 導入後
採用のリサーチ・データ抽出 約4時間 約20分
候補者のリファレンスチェック (記載なし) 候補者1人あたり約25分削減
監査レポート作成(300法人分) (記載なし) 丸1日分の手作業を削減
コンフリクトチェック・AML・KYC等 最大8時間 数分
ファイル1,100件のチェック・リネーム (記載なし) 従来より大幅に短縮

候補者の経歴を一件ずつ開いてメモに書き写し、気づけば日付が変わっている——そんな残業が約4時間から約20分へと圧縮されたそうです。年間400〜500件のピッチ資料作成にもAIを活用しています。いずれも同事務所固有の業務量が前提の数値で、規模の異なる日本の中小事務所にそのまま当てはまるとは限りません。

経営トップ主導の浸透とガバナンス設計

数字の裏側にあるのが、経営トップ主導の浸透策とAIガバナンス設計です。OpenAI公式サイトによると、CEOのSam Nickless氏が自らの活用例を社員に共有し「AIはズルではない」というメッセージを打ち出したことが、抵抗感を下げる一因になったとされています。利用目標を数値で強制せず、結果への責任は人が持つという姿勢を徹底した点も特徴です。

もっとも、導入は最初からスムーズだったとは限りません。仮に、こもれび法律事務所(架空)で若手の佐藤弁護士(架空)が契約書を急いで要約しようと、社内未承認の無料チャットAIに条文を貼り付けてしまったとします。幸い実害はなかったものの、パートナーの中村弁護士(架空)はこれを機に「どの情報なら入力してよいか」を明文化する必要性を痛感した——という場面は、整備し始めたばかりの事務所ではよくある話でしょう。使い方より先に入力禁止の線引きを共有する方が、結局は近道です。

ガバナンス面では承認された業務範囲・入力してよい情報・出力の確認方法の指針を整備し、契約上の保護やアクセス権限、データ処理要件も事前に精査したとされています。データの保管場所を自国内に置いたことも安心材料になったとされています。弁護士執筆のコンプライアンス解説でも同様の項目が挙げられ、AIガバナンス設計の型は国や業種を超えて共通していそうです。

日本の法律事務所は何を参考にできるか

日本の弁護士にも生成AIのガイドラインは存在します。士業AIコラムの整理によると、東京弁護士会が2025年3月27日に施行した「生成AIサービスの適正利用ガイドライン」は会員向けの推奨事項であり、遵守や懲戒の基準ではないとされています。弁護士を拘束するのは以前からある弁護士法や弁護士職務基本規程の秘密保持義務(同規程23条)などで、所属弁護士会により参照文書が異なる点にも注意が必要です。国内の大手事務所でもAIガバナンス構築の特集を組むなど、関心は業界全体で高まっています。

海外事例をそのまま持ち込むのは現実的ではありませんが、承認範囲を最初に決める・入力情報の線引きをする・経営者が自ら使って見せるという骨格は規模を問わず応用できます。契約書レビューや判例調査の始め方は弁護士のためのChatGPT契約書レビュー実践ガイド弁護士会のガイドラインに学ぶ生成AI活用の実態と留意点でも紹介しています。

見落とせないのがAIのハルシネーション(実在しない条文や判例をもっともらしく作り出す現象)です。AIガバナンス体制を整えても出力を鵜呑みにしては意味がありません。専門チームを置けない事務所ほど、一部の業務から試すのが現実的でしょう。

まとめ

Gilbert+Tobinの事例は、経営トップ主導の発信と承認範囲・データ管理を明確にしたAIガバナンス設計を組み合わせ、定着につながった例といえます。日本の弁護士には東京弁護士会などのガイドラインもありますが、義務ではなく推奨事項である点に注意しつつ、承認範囲を決める・情報の線引きをする・使って見せるという骨格は小さい事務所でも応用できそうです。最終的な法的判断は弁護士等の専門家が行う必要があります。まずは自事務所のどの業務から始められそうか、洗い出してみてはいかがでしょうか。

株式会社Cosmico(東京都西新宿、AI/DXコンサルティング)では、士業事務所向けに生成AIの利用ルール整備やAIガバナンス体制づくりを支援しています。

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